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上野焼き宗家九兵衛窯の庭先にあった水盤に浮かぶ秋桜


 それは手入れの行き届いた庭だった。
 低い灌木の木の下に何気なく置かれた作品の水盤には、摘みたての秋桜が三つ浮かんでいる。

 ここは日本八古窯のひとつ、上野焼き宗家九兵衛窯の工房である。
 旧い友人が陶芸に始め、その焼きものの里を案内してくれたのだ。

 その日は北九州市に用があり、ついでにそこに暮らす朋と会うことにしたのだが、十年ぶりの再会とあいなった。
 “朋遠方より会いにいく”である。
 そして夜の更けるのも忘れ焼酎を酌み交わせば、思い出話よりもいま凝っているという陶芸の話に花が咲く。

 ならばと彼の通っている陶芸の里を訪れることにしたのだ。
 窯元では当主の子息である渡仁氏と会うことができ、新たな作風への試行錯誤やその技術の奥深さに興味が尽きず、つい聞き入ってしまった。

 そこの展示室を拝見していると、焼酎を呑むのにちょうどいい小ぶりの天目碗が目に止まった。
 値段も手頃である。
 ならばと幾つかある中から、釉調のよさそうなのをひとつだけ買い求めた。
 さっそく翌日のダレヤメにお湯割りした焼酎を注げば、真に幸せ気分なのである。

 さて、次回は長崎に住む私のところに“朋遠方より来る”約束だ。
 そして、“また焼酎も美味からん”なのだ。
 こちらは有田もあれば波佐見、唐津焼きと、窯元をあげれば枚挙がない。
 今宵は歳の分だけ目尻に皺の増えた朋の顔を思い浮かべつつ、買ったばかりの碗にまたいっぱい焼酎を注ぐ。
 

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展示室には趣のある作品が多く並ぶ 


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お湯割りの美味しい季節になりました
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2012.11.06 作兵衛さん
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山本作兵衛さんとチロルチョコを積み上げたボタヤマのオブジェ

 山本作兵衛という画家をご存じだろうか。
 いや、正確にいえば、福岡県田川市の炭鉱町に生まれ育った鉱夫で、明治期から戦前の
激動の歴史の中で、日本の近代化を底辺で支え続けた男である。

 絵そのものは遠近法など全く無視した、美術的には稚拙なものなのだが、廃れゆく炭鉱の歴史を次の世代に伝えようとして、千点を超える水彩画を描き続けた記録的な価値がある。
 そこには常に死と隣り合わせの鉱夫の日常が、リアルにそして克明に、体験した者にしか語れない説明文とともに記されている。
 そのいずれもが想像を絶する世界で、往時を生き抜いた先人達の、したたかで逞しい力を肌身で感じとることができる。

 私が初めて作兵衛さんの作品を見たのは、もう15年近く前のことであろうか・・・。
 飯塚という同じ炭鉱町の資料館の奥の方で、どこか控えめに掲げられていた。
 しかし、そこからは得体の知れないエネルギーのようなものが感じられ、その印象はしばらく心の中に棲みついていた。
 それが2011年5月に世界記憶遺産に登録されたことで、改めてその存在を思い起こすことになった。
 ちょうど隣町にある上野焼きの窯元を訪ねていたところ、作兵衛さんの企画展があるのを偶然に知り、少しばかり足をのばしてみたくなったのだ。

 展示会場には田川市に本社があるチロルチョコレートが山積みに、ボタヤマを形づくっており、その向こうに白黒の作兵衛さんの晩年の写真が掲げられていた。
 その表情はこれがヤマの男かと疑いたくなるような、実に温和な笑みを含む顔なのである。

 歴史とは時の為政者や、一握りの英雄のみで作られるのではない。
 名もなき多くの人々がいてこそ、新たな歴史の1ページは開かれるのだ。
 そう思わせてくれる、力強く勇気を貰える作品である。 
 
d-8[1]
 
 先ヤマとして掘削する刺青男には、後ヤマとして上半身を裸で掘り出した石炭を外へと運び出す女もいた。
 あ~ゴットン・・・