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2014.02.06
しほみ饅頭と化石

「名物に美味いものなし」とはよく言ったもので、これについては経験的に大方あっているような気がしなくもない。
せっかく頂いた旅の土産ながらも、またこれかとうんざりすることなど多いものだ。
例えばあの浜松名物うなぎパイや京都の八ツ橋、東京や福岡のヒヨコなどなど。
まあ、いずれも知名度が高く無難な土産の代表格で、貰いすぎて飽きてしまったせいもあるが、もし大好きだという方がいらしたら申し訳ない限りである。
だから、ここはあくまで個人的な嗜好の話として断っておく。
そうした傾向の中で、これだけは不思議と好きだというのも幾つかある。
そのひとつが播州赤穂の名物“しほみ饅頭”だ。
先日、これを頂き、久しぶりに味わった。
この和菓子は実に抹茶と相性が良く、茶の渋みにほどよい塩味と淡い甘さが辛党を自認する私であっても目がない始末である。
そうそう、しほみ饅頭を初めて口にしたのは、確か山口大学の名誉教授である松本徰夫先生の御自宅を訪ねた時のことであった。
先生は火山地質学が専門で、若い頃には南極の越冬隊にも参加し活躍されていた方でいらっしゃる。
それでいて芹洋子が歌い、ずいぶん昔にヒットした坊がつる讃歌の作詞者という、意外な一面も併せ持つ気さくな方なのである。
あの九州中央を縦断する脊梁山脈、九重連山の頂を目指せば遥か麓の方から風にのり、正午を報じる坊がつる讃歌のオルゴールの音が響きわたる。
この太古の火山活動で形成された山並みも、かの先生のフィールドであった。
ハンマーを片手に石を打ち割っては、その真新しい割れ口をルーペでのぞき込む姿が昨日のことのように思い出される。
こうして収集された石塊は、苔むした庭はおろか玄関から居間、そして書斎とオブジェのようにあちこちに転がっている。
「あっ、これ南極ね」
そして傍に無造作に置かれた大きな塊の物語を、子供のような顔つきになり自慢げに話を続けるのである。
ふとした瞬間嗅いだ匂いに懐かしさが呼び醒まされるように、当然ながら味覚についても無意識と刻みこまれるものがある
玄武岩の硬く奥深い台地の中に封じ込められたタイムカプセル。
そう、八百万年前の太古の植物化石を供に調査して以来疎遠になってしまったが、先生はいまも壮健なのだろうか。
そうした記憶とともに、またひとつ“しほみ饅頭”を頬張るのである。
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